1章 星を読むということの原点
行きつく先は古典占星術である。
それはわたしが数千のチャートを読み、どんな技法を試しても最後に戻ってくる中心である。
占星術は未来予知の手段ではなく、人間という宇宙の構造を理解するための学である。
原点を見失えば、どんなに多くの情報を重ねても星の声は聞こえなくなる。
モダン占星術の柔軟さや心理的視点は確かに価値があるが、解釈が過多になると本質がぼやける。
古典は構造を研ぎ澄まし、不要な装飾を削ぎ落とした上で真理だけを残す。
混乱した時代にこそ、人は明確な秩序を求める。
その答えは、古典占星術の中にある。
2章 古典占星術とは何か
古典占星術は、紀元前から中世にかけて体系化された宇宙の法則である。
惑星は心理ではなく力の原理を象徴し、太陽は統治、月は変化、水星は伝達、金星は調和、火星は意志を司る。
木星は拡大、土星は制限、これらの組み合わせが人間の運命を構成する。
セクトによる昼夜の判断、ディグニティによる品位の検証、ルーラーによる支配連鎖。
これらを組み合わせると、人生の構造が論理的に立ち上がる。
古典は哲学であり天文学であり、道の指針でもある。
そこに主観や情緒はなく、星の言語としての精密さだけが残る。
それが古典占星術の本質である。
3章 モダン占星術の光と影
モダン占星術は、人の内面を理解し癒しをもたらした。
ユング心理学の影響を受け、自己成長や魂の学びといった概念を広げ、多くの人々を救ってきた。
しかし拡張されすぎた体系は、やがて自らを濁らせる。
小惑星、キロン、リリス、さらにマイナーアスペクトを無限に加えれば、どの星もすべて関係を持つように見えてくる。
オーブを広げすぎれば、もはや何も読めなくなる。
占星術は多義ではなく、秩序の学である。
モダンは人を包み、古典は人を立たせる。
両者の調和こそが理想であるが、基盤を失えば鑑定は感情論に堕ちる。
4章 ルーラーシップと天体の純粋性
古典占星術における支配星の体系は宇宙の骨格である。
水瓶座は土星、魚座は木星、蠍座は火星。
この秩序を崩すと、象徴は曖昧になる。
天王星、海王星、冥王星は人類の歴史や世代的傾向を示すに過ぎず、個人の性質を語る段階では使用しない方が正確である。
古典の支配体系はシンプルでありながら、計算のような美しさを持つ。
ルーラーを辿ることは、魂の経路を辿ることでもある。
そこには整合と必然があり、どの星も役割を誤らない。
象徴の純度を守ることが、正確な翻訳を生む唯一の方法である。
5章 ヨッドやマイナーアスペクトを排除する理由
ヨッドやマイナーアスペクトは、理論的には魅力的でも実占では混乱の元になる。
角度を増やせばどの星も意味を持ち、鑑定が散漫になる。
オーブを広げるほど曖昧さが増し、星の意図が埋もれていく。
占星術の力は、何を読むかよりも何を切り捨てるかにある。
強調すべきは主要アスペクトであり、余白があることで星は語り出す。
古典占星術の潔さは、必要な情報だけを扱う潔白さである。
削ぎ落とすことで見える真実がある。
それが古典の強さである。
6章 古典が示す誤魔化しの効かない真理
古典占星術は正確であり、残酷なほど正直である。
天体の配置は「理由」ではなく「構造」を示す。
そこに感情や同情はなく、ただ宇宙の秩序として現実が映し出される。
しかしこの冷徹さこそが最大の慈悲である。
現実を直視することで、人はようやく自由になる。
星は裁かない、ただ存在を映す鏡である。
その鏡に映る自分を受け入れた時、運命への抵抗が消え、行動の自由が生まれる。
古典は人を縛らない、真実によって人を解放する。
7章 ハーフサムとハーモニスクの共存
古典を軸に据えながらも、ハーフサムとハーモニスクは現代における有効な拡張法である。
ハーフサムは二つの天体の中点に潜む環境と縁の構造を示し、ハーモニスクは内的な調和と精神的共鳴を示す。
古典の基礎にこれらを重ねると、星の情報は立体的に響く。
ただし順序を誤れば混乱を招く。
古典を骨格として置き、その上にハーフサムや調波図を重ねること。
これが占星術を現代に生かすための正しい姿勢である。
構造と共鳴の両立こそ、真の総合鑑定を可能にする。
8章 現代鑑定における古典の役割
現在、わたしの鑑定書はすべて古典を主軸に作成している。
セクト、ディグニティ、ルーラーの連鎖を明確にし、そこに進行法やリターン図を重ねる。
骨格が明確であるほど応用が効き、精度が高まる。
この方法を取り入れてから、依頼件数は10日で23件に達した。
求められているのは派手な予言ではなく、秩序の翻訳である。
古典は静かだが、揺るぎない。
その静けさの中に、真実と導きがある。
終章 星の秩序に還る旅
モダン占星術は人生を彩り、古典占星術は人生を構築する。
その橋を架けるのがわたしの役目である。
古典に立ち返るとは、古い技法を懐かしむことではない。
混乱の中に秩序を見出し、真理へと回帰することだ。
星々は常に語っている。
その言葉を正確に受け取るために、古典の叡智を再び学び直す時が来ている。
それが、古典占星術という道の核心である。

