英国の女王の訃報は、世界に深い衝撃を与えました。英国という国は、皇室と国民が「家族のように近い関係」を築いてきました。王室の行事は単なる政治的儀式にとどまらず、国民の生活と心に溶け込み、文化そのものを彩ってきた。世界に目を向ければ、王室と国民が親密な国は他にもあるでしょう。トンガやタイなどもその一例です。けれども、英国ほど「フレンドリーで愛される王室」を象徴的に体現した存在は稀であったと言ってよいでしょう。
しかし、華やかに見える人生の裏には、重責と苦悩が常に寄り添っていました。わずか二十五歳で王位を継承したことを想像してください。当時の自分を振り返れば、己のことに精一杯で、とても国の舵取りを担う覚悟など持てなかったと感じる方も多いはずです。
その背景には、叔父エドワード八世の退位劇がありました。アメリカ人女性シンプソン夫人との結婚を選び、王冠を捨てた「世紀のスキャンダル」。その決断の余波は王室全体に及び、本来ならば重責を負うことのなかった若き女性を「女王」へと押し上げました。シンプソン夫人自身もまた、想像を絶する重圧に耐えたのだろうと察せられます。結局、王室において「普通に生きる」ことほど困難なものはありません。
女王の人生を彩ったのは、常に家族と世間の注視でした。四人の子どもたちはそれぞれに破天荒な人生を歩み、とりわけダイアナ妃の悲劇は全世界を震撼させました。女王はいついかなる時も「冷静沈着」を求められました。しかし、ただの人間が常に平然と振る舞うことがどれほど難しいか。表情ひとつ、言葉ひとつが国全体に影響を与える立場であることを考えると、精神的な負荷は計り知れません。
占星術から見た女王の晩年
わたしは占星術の観点からも女王の晩年を見つめていました。今年五月の蠍座満月は月蝕を伴い、女王のMC軸に直接影響していました。MCは社会的立場や名誉を象徴し、その対極にあるICは家庭や肉体の基盤を意味します。つまり、この蝕は「公と私の両極」を揺さぶったのです。
さらにソーラーリターンチャートでは、海王星がMCに重なり、天王星が活動宮一度の重要ポイントに接触していました。海王星は曖昧さや終焉を、天王星は突然の変化を示します。つまり「社会的役割を閉じ、肉体の限界を迎える象徴的時期」であったことが読み取れます。
九十六歳という年齢で、亡くなる二日前まで公務を続けた姿は「超人」としか言いようがありません。セカンダリープログレッションで言えば、太陽と月の進行の位相が「終幕と新生」を暗示する段階に入っていたことも重なります。人間離れした献身の背後には、星の巡りさえも支えるような使命感が働いていたのです。
凡人には想像もつかぬ重責
女王という立場にあれば、一つの決断が国全体の未来を変えます。やめる時も始める時も責任重大。ストレスの積み重ねは常人であれば心身を壊してしまうでしょう。それでも崩れずに生涯を全うしたこと自体が偉大な功績であると言えます。
多くの人が自由に旅行し、職業を選び、気ままに生きられることを当たり前に思う現代において、女王の人生は「自由を持たない宿命」と表現できるかもしれません。けれどもその制約の中で、英国の顔として毅然と立ち続けたからこそ、国民は安心し、世界は尊敬を抱いたのです。
新たな時代と山羊座冥王星
王位はチャールズ三世へと引き継がれました。彼は長年「待たされ続けた王太子」として、今後どのような役割を担うか世界が注視しています。若い頃は王室に冷ややかだった人々も、年齢を重ねるにつれて「人間味あふれる英国王室」の魅力を再認識するようになります。わたし自身もその一人です。
占星術的に見れば、山羊座に滞在する冥王星は「時代の様変わり」を象徴しています。二十世紀を体現した女王の崩御と、二十一世紀を担う新国王の即位。その重なりは、まさに歴史の節目であり「確実に1900年代が終焉した」と告げているように感じられます。
結びに
偉大なる女王の人生をひとことで表すなら「責務の象徴」でしょう。愛されながらも孤独で、華やかでありながらも厳格。わたしたちは彼女の歩みを通じて、責任と献身がいかに尊いものかを学びました。
ご冥福を心よりお祈り申し上げます。