夏になると、毎年のように耳障りに聞こえてくる言葉があります。そう、ライオンズゲート。もはや占い業界では恒例の行事のように喧伝されますが、冷静に考えればその根拠は極めて薄いものです。それなのに、妙に「神秘的なイベント」に仕立てあげられ、そこにお金儲けを絡めるのが今のスピリチュアル業界の常套手段。私は、そこに強い違和感を覚えます。
ライオンズゲートというのは、毎年8月8日前後に「宇宙の扉が開く」とか「特別なエネルギーが降り注ぐ」と言われているものです。しかし、占星術的には太陽が獅子座の中盤にある時期であり、それ以上でも以下でもありません。太陽が強く輝く盛夏の季節、私たちはただ強烈な日差しを浴びて、生命力を活性化させ、夏らしい生活を送ればいいのです。紫外線は肌を焼くだけでなく、体内のビタミンD生成に役立ちます。もちろん、日焼け止めは必須ですが、ここで必要なのは「規則正しい生活」と「健全な食生活」であって、「宇宙からの扉」ではありません。
そもそも、占星術には「度数」という重要な概念があります。たとえば、サインの真ん中である15度は、どんな星座においても力強いポイントとされます。ただし、その強さは永遠に続くわけではなく、16度を迎えると次のデーカンに移行するため、一旦バランスを取り直す段階に入ります。そして20度に近づけばまた別の意味合いが生じてきます。度数ごとの意味は緻密に積み重ねられており、それを理解しないまま「宇宙の扉」などというあやふやな言葉で片づけるのは、占星術を冒涜する行為だと私は思います。
さらに気になるのは、この業界の「便乗体質」です。何か話題になると、すぐに高額講座やセッションを売り出す人たちが現れます。価格を見て目を疑うような設定。果たして、その金額に見合う根拠や裏付けがあるのでしょうか。残念ながら、多くの場合はありません。人々の不安や希望を煽り、「今しかない」と言いながら財布の紐を緩めさせる。その手口は、まさに「うさん臭い」の一言に尽きます。
また、よく聞く「ツインソウル」や「ソウルメイト」といった言葉も然りです。本当にそんな存在が客観的に証明されるのでしょうか。私は「自分で決めればそれで良い」と考えています。誰かに「あなたはツインソウルだ」と言われて信じ込む必要はありません。自分の心が深く結びつきを感じるならば、それがソウルメイト。シンプルでいいのです。
スピリチュアルを語る人の中には「見えないものが見える」と断言する人もいます。しかし、視覚や聴覚、体感の違いから「感覚的に受け取る」人がいるのは確かでも、「はっきりと見える」と強調する人がいたら要注意です。本当にそれが見えているのか、あるいは思い込みか、あるいは商売のための演出か。多くの場合、病院での診断をすすめた方が良いケースもあります。見えないのが普通であり、見えなくても人生は充分に意味深い。そこを忘れてはなりません。
占星術は、本来とても論理的な学問体系です。サイン、ハウス、天体、アスペクト、度数。どれも曖昧さではなく、積み重ねによって意味を持つものです。もちろん直感は大切ですが、その直感も正しい知識の土台があるからこそ磨かれていきます。スピリチュアルに傾倒するあまり、知識を軽視してしまうと、結局は表層的な「スピスピ」に走るしかなくなります。
私が伝えたいのは、自分の中にある直感を育てること。外から与えられる「特別な扉」ではなく、自分自身の感覚を研ぎ澄ませることです。朝の光を浴び、体を整え、心を澄ませて日常を生きる。占星術を学ぶのであれば、サビアンシンボルや度数の意味を一つひとつ学び、自分の人生に照らし合わせていく。そこにこそ、真の力があります。
最後にもう一度強調します。スピリチュアルを否定するのではありません。人の心を癒す力や、生きる支えになる側面は確かにあります。ただし、そこに「お金儲け」や「依存」を結びつける時点で、それは危ういものに変質してしまうのです。占星術の本質は、誰かに依存させることではなく、個人が自分自身を理解し、より良く生きるための道具です。
だからこそ、目に見えないものをありがたがる前に、自分の生活を見直しましょう。睡眠、食事、運動、そして人との誠実なつながり。そこから生まれる直感の方が、よほど確かで尊いのです。


